境遇の犠牲者のお話 [2009/07/28 (Tue) 13:21]

「ギッシング短篇集」は、イギリスで、雑誌や新聞に小説が載りだした頃に書かれた短編集。

書き出しから、人を引き込むような魅力的な作品が集められています。

その中に、「境遇の犠牲者」という作品があります。

画家を目指している男のもとへ、有名な画家が、たまたま訪れます。

製作中の大作には目もくれず、小さな水彩画が気に入って、持って帰ります。

実は、その水彩画は、妻が、夫に習いながら書いた絵だったのです。

同じ頃、そんな妻の絵が、他でも売れたりします。

この作品が発表されたのは、1891年。

夫婦は、その水彩画が夫の作品であると世間を欺き、妻は、筆を折り、夫と家庭を守ろうとします。

ところが、妻は、まもなく病死。夫は、絵の教師をして、生き延びます。

ラストでは、老年になった夫が、実際は、妻の書いた絵を、自分の輝かしい過去の作品として、昔語りをします。

自分こそ、生活のために絵の創作を捨てた「境遇の犠牲者」だったと語るのです。



家族生活を続けることは、お互いが、境遇の犠牲者になることでしょうが、その家族を犠牲にして、自分だけが生き延びようとする人間には、なりたくないと思いました。


ギッシング短篇集(ジョージ・ロバート・ギッシング:著、小池滋:訳、岩波文庫)

イギリスの作家ギッシング(1857−1903)は、初期は長篇小説が主だったが、当時の出版状況や家庭事情などから次第に短篇が作品の中心となり、多くの優れた短篇をのこした。食費を削ってまで好きな本を買い漁る男を描く「クリストファーソン」など8篇を収録。作者の真価が発揮された短篇集。



境遇の犠牲者/ルーとリズ/詩人の旅行かばん/治安判事と浮浪者/塔の明かり/くすり指/ハンプルピー/クリストファーソン







[2009/07/28 (Tue)]の日記